犬派の僕が猫と暮らす理由|4章 ひとつの命を感じること
待合室でいろいろお話しすること一時間半後。ようやく、ぼくの番が回ってきた。
名前を呼ばれて診察室に入ると、スタッフさんに抱えられたねこさんが待っていた。
手の中で、踊るように暴れている。ぼくが抱っこしても、とにかく暴れる。
いやん、いやん、ぼく降りてあそびたいのーん。
じたばた、じたばた、忙しない。このときはまだ退院濃厚ではあるが自信がなかったため、車中にカプセルホテルを置いてきてしまっていた。急いで車に戻ってカプセルホテルを持参して診察室で待たせていたねこさんを入れた。
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カプセルホテルの扉をガリガリとパンチしまくる。数日前まで虫の息だったとは思えないほどの力強さだった。
ねこさんをあやすと、しばらくして先生がやって来た。そして、ついに待ちに待った瞬間が訪れたのである。先生の口から『退院だね』という言葉をいただいたのだった。
――やった!
レントゲンでの肺の様子も、まあ、いいでしょうということで、やっと退院することができることになったのだが、しかしなのである。
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「問題は他にもあるから」
――は? 肺炎以外の問題ですと?
「おうちで三日間、虫下しを飲ませてね」
――は? 虫?
寝耳に水と言えばいいのか。とにかく、ぼくは耳を疑った。虫がいるなんてことを、このときまで考えたこともなかった。ねこさんが家にやってきて数日内で二回、虫の検査はしており、そのときの結果は白だったのだ。
ただし、検査に持っていった便の量が多いわけではなく、検査できるギリギリだったことを思えば、発見に至らなかったのも仕方のないことだったのかもしれない。
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そして振り返る。仮退院の時にねこさんは虫下しの小さな錠剤を飲まされていた。嫌で三回ほど吐き出したが、無理やり飲まされた理由がここにあったことを今更ながら気づかされた。
「あの……そんなにいるんですか?」
「うん、いるね。便がついた手を舐めるとね、体の中で増えちゃうんだよ」
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その瞬間、ぼくの脳裏にいやな映像が思い浮かんだ。まだ入院する前の話。実はねこさん、自分が出した便を食べたのだ。ぼくが確認したのは二回ほどで、すぐに引き離して便の始末はしたのだけれど、このときは体調が悪すぎて、食糞してしまったのかと思ったのだ。
実際、わんこでも食糞することはある。ひなさんもある。実家の脂肪分解ができなかった先輩わんこさんの匂いがものすごくよかったのか、とにかく、そのわんこさんの糞だけを食べるのだ。すぐに始末はするものの、追いつかなかったこともあり、何度か食べられてしまっている。
幸いだったのは、その先輩わんこさんが虫を抱えていなかったことである。
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栄養の残った糞を食べてしまうくらいには体の具合が悪かったのかと思ったし、虫がいるとは露とも思っていなかったのもあり、これまで先生に食糞の話はしてこなかった。そして、便に砂をかけようとしていたが、体力の割に砂が大きく重たくて、上手くかけることができず、手についてしまったとか、踏んづけてしまったとかは何度かあった。その手を知らないうちに舐められていたこともきっとあったに違いない。
またしても、ぼくの無知から来た失態である。
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恐る恐る、その旨を先生に伝える。
「便……食べました」
「それじゃ、爆発的に増えるね」
――いやぁぁぁぁっ!
大ショックな一言だった。
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「四日後にまた見せてね。便も持ってきてね」
獣医さんで三日分の粉状の虫下しと、回復期用の缶詰を処方され、ひとまずは退院できる運びとなったものの、まさか、まさかであった。
退院するのはいいけれど、問題がまったくない状態でおうちへ帰るわけではなく、まだまだ通院しなければならない状態であったのだ。
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――帰って来るぜ、うぇーい!
そんなテンションは、虫がいますの一言で急降下する。
そしてその後、ねこさんの中にいるであろう虫のことを調べて、さらにぼくは真っ青になる。これもまた、彼の不調の原因のひとつであったことを痛感して、頭を抱えることになるのだった。
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退院直後のお食事の様子です
元気に食べられるようになりました
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帰宅後、かまってあげられないので
ケージに入れたら
出してと催促されました
ケージの外でねこじゃらしを振ると、こっそりこうやって見ながら近づいてくるところが可愛かったのです。
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【お知らせ】
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以前にも紹介させていただきました猫飼育の小説が『犬、猫、もふもふ』小説コンテストでこのたび佳作をいただきました。
選評もいただきました。
現在、第一部を終わって第二部へというところで続きがストップしている状態ですが、ぼくの体験を元にしたおもしろい小説に変化しております(笑)
猫の飼育に興味のある方、猫あるあるやアレルギー対策まで言及したこの物語。
ぜひ、お手に取っていただければと思います。●
――ひとつの命を感じること(10/12)つづく――
作:紫藤 咲
▶ 作者の一言
▶ 紫藤 咲:猫の記事 ご紹介
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――次話――
ねこさんのお腹の中に虫がいる――
退院はできたものの、次は虫との闘いだ。
検索でも調べてみた。
食欲不振、腹部のふくらみ、子猫の発達不良、体重減少
――わ、思い当たることばかり。
ぼくは青ざめた。
――前話――
ぼくは猫さんを拾ったことを、何か特別なことをしたように思っていた。
――しかし、獣医さんの待合室。
そこには『猫さん、拾いました』の話がごろごろしていた。
世の中は優しい人がたくさんいるんだと、感動したぼく。
でも、ちょっと違っていたかも。
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この記事は、下記のまとめ読みでも読むことが出来ます。
この記事は、下記の週刊Withdog&Withcatに掲載されています。
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――本クールの第1話目です――
ねこさん不在の寂しさを救ってくれたのがSNSでの交流だった。
そこで想うのが『引き寄せの法則』だ。
『強く願ったことが叶う法則』である。
みんなが祈ってくれたら、きっとその思いは――
――本連載の第1話です――
運命の日――
ぼくは猫を拾った。
犬派だった著者が、猫を拾ってからの悪戦苦闘を描くエッセイ。
猫のいない日常に、飼ったこともない猫が入り込んでくる話。
はじまりは、里親探しから。
――当然、未経験。
「ぼくらの物語はこの日から始まった」
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個人の保護エピソード――
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――作者の執筆記事です――