撮影&文:ゆきねー
~うちの子がうちにくるまで No.3-1~
愛猫を家に迎えるまでの葛藤を、飼い主自身が、自分の言葉で綴ったエッセイのシリーズです。
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今日は、不思議なエピソードでうちの子になった、ボンちゃんのお話をします。
ボンちゃんって変な名前と思いますよね。でも、それにはちゃんと理由があるのです。
もう15年以上も前に遡ります。
その頃我が家の周辺は、そこら中にきゅうり畑が広がっている、とても長閑なところでした。
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ある初夏のこと――
その静けさを破るように、開け放した窓からは「キャーキャー」という、明らかに子猫と思われる声が響き渡るようになりました。
夕方になると必ずその声が聞こえてきます。
私は気になって仕方がなく、当時小学生だった息子と毎日その子猫を探したのですが、見つかりませんでした。
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それからしばらくして――
きゅうり畑のネットに、キジトラの子猫が引っかかっていたのを、近所の人が見つけました。多分その子が、いつもの声の主と思われました。
ネットから離してやると、その子猫はすぐに、どこかへ行ってしまったそうです。
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それからです――
キジトラの子猫が、我が家の付近を、ウロウロするようになったのは。
私は何とか保護してあげようとするのですが、いつも逃げられてしまう。
そのくせその子は、凝りもせずに我が家の庭に現れる。
その繰り返しでした。
そんなある日のことです――
私が車に乗ろうとしたら、何か音がするんです。ゴソゴソという音。
「なんだろう?」
と、思いながら、ボンネットをバンバンと叩いてみました。
――なんの反応もありません。
「えいやっ!」
とボンネットを開けても、何も見えません。
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「エンジンをかけようかな」
と思ったのですが、またもや違和感――
「なんかおかしいぞ」
今度は身をかがめて、車の底面の、シャーシ部分を覗いてみました。
すると――!
なんとキジトラの尻尾が、見えるではありませんか!
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「あの子猫だ!」
ソロ〜っと車の下に潜り込んで、その尻尾をつかみ引っ張り出しました。
その子猫は震えていて、恐怖に怯えたように、目がつり上がっていました。
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子猫を保護できて、一先ずはホッと一息。
しかし我が家には、その子をすぐに引き取ることが出来ない事情がありました。
当時わが家は、純血種のラグドールを迎えていたのですが、その子のブリーダーさんとある約束をしていたのです。それはFIPや猫エイズ、白血病などの病気がある猫は、家に引き取らないという約束でした。
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どうしてそんな約束をしたか?
それはブリーダーさんに深いこだわりがあったからです。
そのブリーダーさんは、自分が取り上げた子たちにとても愛情が深い方でした。
一度よその家に送り出した子でも、万が一迎えた側の事情で飼えなくなった時には、また自分で引き取るような方だったのです。
もしも引き取りをしなければならなくなった時に、妙な病気を持ち帰られては困りますかよね。だから、そんな約束を求められたのです。
このブリーダーさんのことは思い出深いので、また改めて書こうと思っています。
さて、そんなこともあったので、私はすぐその足で動物病院に行きました。
もちろん、病気の検査のためです。
結果が出るまでには数日かかります。しかし、ここで連れ帰ると、もしも病気が見つかった場合に、ブリーダーさんとの約束を破ることになってしまいます。
ですからその間は、病院に預かっていただくことにし、もしも我が家で迎えられなかった場合は、獣医さんの受付の方が里親になる事も決めておきました。
一度拾った命は捨てられませんからね。
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幸運なことに、その子猫は無事全ての検査をクリア。
晴れて、うちの子となったんです。
そして――、わが家ではその子を、ボンちゃん名付けたのです。
もうお分かりですね。ボンネットから出てきた子だから、ボンちゃんです!
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迎えてからのこと――
ボンちゃんは野良暮らしが長かったためか、それとも母猫からすぐに離れたせいか、トイレも使えない子でした。玄関で丸くなっていて、お漏らししてしまうようなビビり猫だったんです。
ボンちゃんにしてみたら、生まれて間もなく母猫から離れて、放浪し、その後捕獲されて我が家に来たのです。短い間に環境がガラリと変わってしまったのですから、その変化を受け入れられないのも、無理のないことなのかもしれません。
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仕方なくボンちゃんは、しばらくはうちの家のテラスで、網戸越しに過ごしてもらうことにしました。そしてその間に、キジトラ猫が好きな夫が、トイレの特訓をしてくれました。
そしてそんなことを経て、ようやく我が家の一員になったのでした。
――ボンちゃんがうちの子になったのは(前編)・つづく――
~うちの子がうちにくるまで No.3-1~
猫の名前:ボンちゃん
猫種:保護猫
飼主:ゆきねー
▶ 作者の一言
▶ゆきねー:猫の記事 ご紹介
▶ゆきねー:犬の記事 ご紹介
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~犬や猫と暮らすあなたへ~
『うちで飼えるかな?』
『きちんと面倒を見られるかな?』
犬や猫を、”はじめて”飼う時、ほとんどの方はこう思ったことでしょう。平均年齢でいえば15年も生きる小さな命を預かるのだから当然ですね。その葛藤を乗り越えて、我々は犬や猫と暮らします。
毎日が楽しいですか?
――きっと楽しいですよね。
だって、犬を飼うこと、猫を飼うことは、喜びに満ちていることだから。
どうか忘れないでほしいのです。その楽しさを手に入れる前に、我々はものすごく大きな決心をしたのだということを。
そして、どうか自信を持ってほしいのです。
その決心が、ずっと我々を支え続けてくれるのだと。
いつか、その子を送るときが来たとしても。
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――うちの子がうちにくるまで、次話――
猫-3-2|ボンちゃん
今回は、ボンちゃんの気ままな一日。
愛想をしない。好きな場所にいる。食べたくない時は食べない。
それが徹底していて――
いいねえ、ボンちゃん。
しかし―― ボンちゃんって、
本当に、ボンネットが好きなんだねえ。
――うちの子がうちにくるまで、No.2の前編――
猫-2-1|みみ子
犬猫で最大時11匹。
今や多頭飼いが当たり前のお宅に、最初の1匹としてやってきた子猫のお話。
犬猫の飼い方を全く知らない作者。
動物病院に、そして次に本屋に――
てきぱきと進める作者は、当時現役の看護師さんでした。
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この記事は、下記のまとめ読みでも読むことが出来ます。
この記事は、下記の週刊Withdog&Withcatに掲載されています。
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――お薦めの記事です――