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【誰のために働くのか?】産業獣医師と動物病院の獣医師を較べてみる ~犬猫の飼い主が見た、加計学園問題(その7)~

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f:id:masami_takasu:20180708100501j:plain文:高栖匡躬 

少々、連載の時間が開いてしまいました。
産業獣医師って何? 公務員獣医師って何? 
そして――、足りていないって本当なの?
そんなことを、飼い主目線で、ネット上で拾える情報から追いかけてみるのが、本シリーズです。

前回の記事は、産業獣医師の仕事内容について書きました。主に3K(きつい、きたない、きけん)と言われている理由に関して掘り下げたものです。

本記事ではもうすこし深く、産業獣医師と小動物診療医(街の動物病院)との比較をしてみます。

【目次】

 産業獣医師は誰のために働くのか?

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獣医師と聞くと、我々はすぐに小動物診療医(街の動物病院)を想像し、動物の病気を治し、命を守ってくれるものだと考えがちです。しかし産業獣医師はそうとは限りません。なぜかというと、その存在理由と目的が小動物診療医と違うからです。

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産業獣医師は畜産農家を守るための存在であり、それを突き詰めると、畜産農家の利益を守るために働いています。

治らない病気、難治性の病気の場合は、飼育や治療に時間を掛けると畜産農家の出費がかさんで、農家の経営を圧迫する可能性があります。
その場合は、安楽死を選択しなければなりません。
出荷できる場合は、生きた状態で食肉として出荷する可能性もあります。

その見極めをし、実行するのも産業獣医師の大切な役割になるわけです。

 

 もしかしたら3Kでなく、4K?

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畜産農家の方々も産業獣医師も、動物に対する愛情は当然のように持っています。
動物に関わる仕事を選んだ時点で、もしかすると一般の人達よりもその愛情は深いのかもしれません。
しかしならがら生活を守るために、安楽死という苦渋の選択をすることなるわけです。

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産業獣医師は当然ながら、その苦渋の選択を沢山経験沢山することになります。
産業獣医師の離職率はとても高いと言われていますが、それはほとんど休みが無いという仕事の過酷さに加え、精神的な疲労が大きいようです。

獣医師を志した段階では、動物が好きだと言う動機があったのに、いつのまにか多くの産業動物を安楽死させる立場に立ち、いたたまれずに離職する方が多いようです。

前記事では産業獣医師が3Kと言われる事に言及をしましたが、ここに精神的にきついという項目を別にすると、4Kと言えるのかもしれません。

 

 実は我々も当事者だということ

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産業動物の安楽死については、可哀そうにと思われる方が多くいることでしょう。
しかし、よくよく考えるとそれは、対岸の出来事ではなくて、我々は当事者でもあるのです。

産業獣医師が畜産農家の利益を守ると書きましたが、では畜産農家の利益が何を意味するのかということろまで更に突っ込んで考えると、それは明らかです。

畜産農家の利益とは、言い換えれば我々の食料(肉、乳、卵など)を供給できるかどうかで左右されます。つまり我々が食料として産業動物を求める限りは、それが続いていく訳です。

スーパーの精肉売り場は、畜産農家の経営そのもの
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もしも病気の牛や豚を安楽死させないとすれば、それらを治療し、飼育し、寿命を全うさせるためのコストは、すべて食料の価格に反映されるわけです。

我々がスーパーマーケットで、少しでも安い肉や、牛乳や、卵を求めると言う行為は、産業動物の安楽死と、無縁ではないわけです。

 

 年収の比較なんてできるのか?

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さて、産業獣医師と小動物診療医の比較を行う上で、給与の比較をしてみたいところですが、公的な統計数値は存在していない模様です。

ネット上には給与を掲載した記事もありますが、公的統計数値を元に独自に算出したもの(算出方法については記述なし)や、匿名の個人の書き込みばかりで、客観的なものとは言い難く、数字で比較することは断念しました。

ここから先は、一般的に流布する情報を考慮しながら、筆者の推測を読んで下さい。

一般的に言われている事として、給与の構図は下記の傾向のようです。

小動物診療医>産業獣医師
都心部>地方
開業医>勤務医

しかしこの構図が、多くの識者が語るところの、
『地方の産業獣医師が不足し、都市部の小動物診療医に人材が集中している』
の、理由となっています。
識者の皆さんは、一体どこら辺りから裏付けをとっているのでしょうか?

この記事をご覧になった方で、もしも公的な統計や、調査の結果の所在をご存知であれば、ぜひ教えてください。

参考までに、筆者自身が試算した数字を下記に記載します。
連載の2回目で試算したものです。

・平均的な動物病院の利益は750万円程度
・恐らくはこの利益が院長(即ち開業医)の年収に充てられる。
記事へのリンク:https://www.withdog.site/entry/2018/01/15/071238

 

 本当に小動物診療医の方が儲かるのか?

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調査をしてみて感じたことは、確かな情報が無いことと、勤務体系にバリエーションがありすぎて、一概に比較が出来ないということです。

小動物診察医の場合:
開業医/勤務医のどちらであるか?
勤務医としても、個人経営の病院勤務/大学病院など大病院か?
給与に地域差あり

産業獣医の場合:
開業医/勤務医のどちらであるか?
勤務医の場合は、農業共済組合所属/開業医の医院に所属か?
給与に地域差あり

個人の書き込みの中では、農業共済組合所属の産業獣医師の給与はそれなりに良いとの情報もありました。

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・55歳の所長クラスで800~900万円くらい
記事へのリンク:https://www.withdog.site/entry/2018/01/15/071238

この数字を信じるとすれば、給与面はそう悪いものとは思えません。前項で掲載した平均的な動物病院の利益(推測値)を上回る可能性もあるということです。

駆出しの勤務医の段階での待遇は、小動物診療医も産業獣医師も、同じように低いもののようです。
40歳になったときを比較すると、多くの記事では開業している小動物勤務医の方が年収は上であるとしていますが、飽くまでそれは平均値に過ぎません。

自己資金が足りず、開業できなかった場合や、病院経営が上手くいかなかった場合は、むしろ団体に属する産業獣医師が昇給していったほうが、給与は上ということも有り得るように思えます。

産業獣医師の給与が安いの意味は、下記のどちらなのでしょう?

①仕事がきつい上に給料が安い
②給与は悪くないが、仕事のきつさとを考えると割に合わない

もちろん、所属する団体の経済状況にも左右されるはずですが、客観的に見て②の方に分があるように感じます。

 

 本記事のまとめ

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産業獣医師のほとんどが、農業共済組合という大きな組織に属するわけですが、そこで安定が得られるというメリットは大きいように思います。
産業獣医師は、ペットという趣味性の高い(流動的な)市場に依存せず、畜産業という確かな産業に根差す職業だとういうことです。

少々前のことですが、別件で開業されている獣医師の方に取材をした際に、それとなく産業獣医師や公務員獣医師をどう思うか聞いてみました。
その回答は『うらやましい』というものでした。

この言葉は、街の動物病院の経営の厳しさを物語るものであり、産業獣医師や公務員獣医師の待遇が、言われているほど悪くないのでは? と思わせるものでもあります。

実を言うと、この一連の記事を書いている内に、動物医療にはもっと根源的な課題があるようにも思えてきました。

シリーズ最後のまとめにそれを書こうと思っていますが、その前に、次回は本記事で触れていない、公務員獣医師について書き、それから全体のまとめをしたいと思っています。

 

 このシリーズ記事の全体構成は

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――犬猫の飼い主が見た、加計学園問題(その7)・つづく――

文:高栖匡躬
 ▶ 作者の一言
 ▶ 高栖 匡躬:犬の記事 ご紹介
 ▶ 高栖 匡躬:猫の記事 ご紹介

――次話――

今回は、公務員獣医師について検証します。
語る人によって公務員獣医師は、産業獣医師の中に含まれていたり、含まれていなかったり。資料やレポートも分類が混在していてややこしい。
これがまた、問題を複雑にしています。

最初から分けて語れば、本来はシンプルな問題。
獣医師の総数が足りているという定説も、何か怪しく見えてくる。
それって数字の上だけの話でしょ?

――前話――

調査に時間が掛かる記事なので、なかなか連載が進みませんね。
今回は、産業獣医師の仕事の内容について――
3K(きつい、きたない、きけん)と言われる、仕事の内容を解説します。

読めば、大変な仕事だと分かります。
そして今、その育成が大事であるという事も。

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まとめ読み|犬猫の飼い主が見た加計学園問題 ②
この記事は、下記のまとめ読みでもご覧になれます。

週刊Withdog&Withcat
この記事は、下記の週刊Withdog&Withcatに掲載されています。

――初回の記事です――

マスコミが騒がなくなったからといって、問題はなくなったのではない。
我々、犬猫の飼い主にとって、去年と今年で何も変わっていないのだ。
マスコミが追及しないならば、自分で調べて見ようか――
そんな連載がこれ。徹底的に、飼い主目線。

 もう一つの動物医療問題(狂犬病予防注射) 

狂犬病予防注射実施率を検証してみる

この注射には賛否両論あるようだ。積極的に反対をする人もいる。
その反対の理由を読むと、なるほどと思う。
そこでまた、色々と調べて見ました。
そして、気が付いた。
「推進している側と、反対する側では、全く論点が違うんだ」

前回記事では、狂犬病予防注射の実施率が低いことを書きました。
その中でも30%台の数字はあったことには、特に驚きました。
その数字が、どこから来たのか?
疑問に感じて、追いかけてみたのが今日の記事です。
実施率って、ちょっとした数字の選び方で変わります。

 

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