猫の話をしようか

Withcat 猫と飼い主の絆について

【猫の肺炎】猫は人を選ぶんです ~4章(8/12)~ 【待合室で保護の話】

犬派の僕が猫と暮らす理由|4章 ひとつの命を感じること
犬派の僕が猫と暮らす理由

撮影&文|紫藤 咲
 

ねこさんが退院するだろうと思われた翌々日。会社から帰って六時半過ぎに病院に到着したのだけれど、この日は尋常でないくらい混雑していた。それこそ駐車場は停められる場所がなくて、駐車場の外で空くのを待っている車が何台も列をなしていた。

さすがに近所をぐるっと一周してくればなんとかなるだろうと思っていたのが甘かった。戻ってみても、待っている車の台数がさらに増えているのである。もっと言えば、車が出ない。よって、ぼくもその待ちの列に加わざるをえなかった。

結局のところ、待合室に入れたのは七時を過ぎていた。こんなことは滅多にないが、それにしたって、退院できるかもしれない日に限ってこれほどまでに混雑しているのか。待合室の様子から帰宅できる時間を計算したぼくはため息をついた。どう考えても九時を回るだろうと思えるほどには人でみっちり詰まっている状態だったのだ。

そうなると、やることがない。とにかく延々と待ち続けるしかない。そんな暇な時間、いったい何をするのか? そう、獣医さんでやることはひとつ。情報交換である。

動物病院の待合は動物好きが集まっているところだ。そうなると「どうしたんですか?」とか「かわいらしいですね」とか、たった一言から話が山のように膨らんでいくのだ。こういう場ではいろいろな話が聞ける。今日は助手の先生が休みで、診察に時間が掛かって大混雑だったということも、他の患者さんから聞けるのだ。

そんな面会の待ち時間中、ぼくはある二人の女性が目に入った。ほぼ毎回というくらい、何度も見かけた女性たちだ。

彼女たちはどうやら親子らしい。ともに猫用バスケットを抱えている。話を伺うとかなりの数の猫を飼っていて、最近亡くなった子もいるらしい。ほぼ毎日連れてきている子もいるけれど、今回は別の子の具合が悪くなったから来たんだと言った。

「もうねえ、ねこ貧乏よ」

申し訳ないとは思うが、そう語った二人はたしかに裕福そうには見えなかった。ただ語り口調はとても穏やかだったし、貧乏と口にしながらも、それを悔やんでいる様子は微塵もみられなかった。

「年金は全部、ねこたちねえ」
「だって、どういうわけか現れるんだもん。もうだめ、もうむり、絶対むりだからって心を鬼にして素通りしても、なんか湧いてくるのよね」
「もう、これが最後って思うのにね」

――湧いて出る?

「わかっているのよね、ねこって。拾ってくれる人をちゃんと自分で選んで出てくるの。会わない人はまったく会わないのに、うちはもう、ひっきりなしなんだから」

――拾ってくれる人をちゃんと自分で選んで出てくる?

「それに譲渡もしているの。予防接種までしてもらわれていく子はきれいな子ばかりだから、うちに残るのは不細工ばっかりだし、問題児ばっかりなのよねえ」
そう言いながら笑う二人が、ぼくにはとてもしあわせそうに映った。

 

猫用バスケットに入ったその方たちのねこさんたちは丸々と太っていたし、とても大きかった。大事に、大事に育てられたんだとわかるくらいに毛艶もいい。

彼女たちの言うとおり、見目麗しいかと言えばそうでもないのかもしれないが、それでもねこさんたちはしあわせなんだろうなと思えるほど豊かな体つきだった。

「それでもねえ。ボランティアさんに比べれば、わたしたちのやっていることなんてまだまだなのよ。あの人たちは本当にすごいわ。真似できないって思う。もうお世話だって大変なのに、子猫を何匹も育てるんだから」
その人を思い浮かべているのだろう、娘さんのほうが大きく頭を下げるようにして言った。

ぼくからしたら、この方たちだって十分すごかった。獣医さんに来る労力もそうだけれど、一匹育てるのだって四苦八苦している。まして、野良猫。順調に育たないケースは山のようにあるだろうに、それでも自分の前に現れて、選ばれてしまったら、あっちへ行けとは言えないと、そう笑うのだ。

実はぼくの大叔母も、十年以上前からねこを大量に拾って育てている。大叔母であるので、祖母の妹なのだが、もう八十も越えている。足元も頼りなく、耳だって遠い彼女が、今なお育てているかはわからないが、彼女の前にねこは現れるのだと言っていた。

わざわざ彼女の家の前にねこを捨てていくような人までいたらしい。
祖母と違って裕福ではない大叔母は、身を削ってねこを育てていた。

ねこさんを飼うまでのぼくからしたら、大叔母はお人よしすぎて残念な人に思えてならなかった。しかしである。

「大変だけど、かわいいのよ」

おそらく、これがすべてなのだと思う。ぼくもねこさんを拾って思ったことだ。
大叔母もそうに違いない。

最初は楽勝だと思っていた。まともに餌さえあげていれば、ちゃんと獣医さんに行っていれば、普通に大きくなれるものだと考えていた。けれど、そんな簡単ではない。

拾い上げたときに、すでに病気であり、小さな個体であったとしたら、そこから生きながらえさせるためには尋常ではない労力、経済力、体力、そしてもちろん、愛情がなければいけないのだから。

「ぼくも……がんばります」
二人よりも早く受診を終え、彼女らに頭を下げて、ぼくは獣医さんを後にする。

 「お大事に」
そう言って笑ってくれた二人にはこの後、会うことはなくなったのだけれど、彼女らのような人を選んで、長生きしてくれる子が一匹でも多くいてくれるといいなと願わずにはいられなかった。

そしてぼくも――
ねこさんがぼくを選んでくれたというのなら、精いっぱいがんばろうと思う。
至らない飼い主であるけれど、彼が一分でも一秒でも長生きし、ぼくと一緒に生活することにしあわせを見出してもらえるように――

【余談】
f:id:saki030610:20190329205349j:plain

 

――ひとつの命を感じること(8/12)つづく――

作:紫藤 咲
 ▶ 作者の一言
 ▶ 紫藤 咲:猫の記事 ご紹介

――次話――

――前話――

週刊Withdog&Withcat
この記事は、下記の週刊Withdog&Withcatに掲載されています。

――本クールの第1話目です――

――本連載の第1話です――

関連の記事もご覧ください。
テーマ:猫の保護活動

個人の保護エピソード――

 
 

――作者の執筆記事です――

© 2017 Peachy All rights reserved.